徳島地方裁判所 昭和39年(む)84号 判決 1964年5月02日
被疑者 岩佐虎夫
決 定
(被疑者 氏名略)
右の者に対する暴力行為等処罰に関する法律違反及び公務執行妨害被疑事件について、昭和三九年四月三〇日、徳島地方裁判所裁判官浜田武律がなした勾留取消の裁判に対し同日徳島地方検察庁検察官検事山田十雄から準抗告の申立があつたので当裁判所は調査の結果次のとおり決定する。
主文
本件準抗告の申立は、これを棄却する。
理由
本件準抗告の申立の理由は、検察官の準抗告申立書並びに同理由、補充書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
よつて一件記録によると、本件被疑事実のような罪を犯したことを疑うに足りる相当の理由があることは明らかである。
そして右についての資料をみるに、そのほとんどが検察官のいう被害者側の供述を録取した書面及び本件現場にいた警察官の報告書のみであり、検察官のいう被疑者側すなわち被疑者及び右現場にい合わせた者の供述を録取した書面が皆無であることは、所論のとおりである。
ところが、被疑者は捜査官に対し本件被疑事実に関する供述を拒否し、また検察官のいうところによれば、右現場にい合わせた者は捜査官の出頭の求めに応じないのである。このことは、捜査官にとつて捜査を進行させるについて全く障害になるものでないとはいえないばかりでなく、被疑者を釈放した場合に罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由と判断さるべき事態を生じさせるものといえるであろう。しかし、被疑者は捜査官に対し意思に反し供述をする必要がないし、被疑者以外の者においては捜査官の出頭の求めに応じなければならない法律上の義務はない。従つて、右のように被疑者が捜査官に対し被疑事実に関する供述を拒否し、また被疑者以外の者において捜査官の出頭の求めに応じないことが明らかである本件においては、今後における証拠の収集は、捜査官の意のままに進展しないであろうことは優にこれを観取できるが、なおも引き続いて被疑者を拘束しなければならない必要性は既に消滅したものといわなければならない。その他被疑者が逃亡しまたは逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるものと考えられる事情も存しない。
以上により、被疑者の勾留を取り消した原裁判は相当であるというべく、右裁判を不服としてなした本件準抗告の申立は、結局、その理由がないものと認めてこれを棄却することとし、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項により主文のとおり決定する。
(裁判官 吉川寛吾 竹田国雄 磯部有宏)